ね」
「そうです」
「ヤ、いろいろ分りました。それから浩之介さんのことですが、事件の晩十一時ごろ道で会って一しょに帰ってきたのは本当ですか」
「それはまちがいありません。熱海銀座と駅から山を降りてくる道のぶつかるところがあるでしょう。ちょうどあのへんを山手の方へ歩きかけていたのです。あのへんから乃田さんの邸まではまだかなりの道です。それで登り坂ですから、ビッコのあの人の足では相当の時間がかかるんですよ」
「火事の時はねていたのかね」
「ええ、消防車がきて叩き起されるまで知らずにいました」
「それでいろいろ分りかけてきたが、そんなことをした理由はなぜだろうね」
「ぼくがですか」
「失敬失敬。むろん君ではない。ある人がだよ。むずかしいことをしているわけがね」
「それは誰のことですか」
と辻が声をはずませてきいたが、九太夫はそれに答えずに、
「とにかく今晩、夜が更けてから実験してみましょう。十二時ごろ拙宅へお越し下さい。小さな実験です。これが思うようにいっても、まだのみこめないことが山ほどあるんですよ。事件解決は一歩また一歩ですよ」
九太夫はこう約束して帰った。その晩の十二時ごろに辻は九
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