るッと庭をまわって奥さんの部屋の窓をたたくんです。そしてね、奥さんから何かを受けとって何かをやったんです」
「それで」
「そのとき爺さんは低いつぶれ声で外国語の咒文のようなことを云ったんです。ラウオームオー。そうきこえたんです」
「ラウオームオー」
「そうなんです。長くひっぱる発音でそう云ったんです。たしか、そうきこえましたぜ」
「奥さんは?」
「何も答えません。品物を改めて窓をとじてしまったのです」
「品物の形は?」
「それは分りませんが本か雑誌のようなものでしたね。爺さんの受けとったのもやはりそんなものでしたが、あとで分ったことでしたが、これは札束でした。二百万円です。この日三百万円の火災保険がはいったものですからその一部分です」
「どうしてそれが分った?」
「今朝になって婆さんが堂々と云うんですよ。奥さまから退職手当に二百万円いただいたから郷里へ帰って小さな店をひらこうなんてね。それをきくと浩之介旦那が血相かえて奥さんの部屋へビッコをひきずっていきましたがね。ボンヤリと戻ってきました。奥さんからもたしかに退職手当に与えたものだと云われたのでしょう。ゆすっていたのはアイツか、信じら
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