一方が死ねばとは云わないけれども、居なければねということは存在しなければねということで、要するに殺せばそうなるという結論はギリギリのところそれしかない。そして二人はたがいにそれを当然考えはじめているのであった。
都会の中にも、農村にも、こんな孤島は方々にある。そして、そこでも、アナタハンと同じような事件が奇も変もなく行われているのである。
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グズ弁はもう四十一であった。彼は勤め先のことや、家庭の事情を割合正直にミヤ子や孤島の常連に打ち開けていたのだけれども、誰もそれを信用しなかっただけの話なのである。そして、信用されなかったのは彼の不徳の致すところではなく、つまり他の連中がこんなところで本当の身の上なぞを話すものではないという風に心得ているせいであった。つまり、ほかの連中は(もちろんミヤ子も)自分の本当の身の上を誰にも打ち開けていなかったし、自分と同じように他の人々もそうに決っているときめこんでいたのであった。
グズ弁はここと同じように会社でもグズ弁とよばれていた。否、彼がこの飲み屋で本当の身の上話を物語った代償として人々の信用を博し会社に於けると同じよ
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