た松平伊豆守は智略の人である。鉄砲の正面から刀をふりかぶつて突撃しても徒《いたずら》に死傷多く戦果の少いことを見抜いた。そこでオランダのカピタンに命じて海上から砲撃させる。敵陣へ矢文を送つて切崩しにかゝり、甲賀者を城中に放ち(尤も切支丹語を知らなかつたので忽ち看破られた)敵の弾薬の消耗を見はからつて総攻撃にうつり、包囲二ヶ月の後、やうやく全滅せしめることができた。一揆軍は弾薬の欠乏と共に自滅したが、弾薬と食糧が豊富にあれば、籠城は無限につゞく勢だつた。形骸万能の徳川流の兵法が馬脚を現したのであるが、ともかく勝利を得た彼らはそのことに気付かない。オランダ人に助太刀を頼んだり、矢文を送つて泣きを入れたり、総攻撃の勇気なくダラダラと三ヶ月もかゝつたといふので、智恵伊豆苦心の策戦も、畳の水練、政治家の戦略、まつたく評判が悪かつた。猪突猛進の板倉重昌が甚だ好評を博したのだ。かうして鉄砲は亡びてしまつた。
 今我々に必要なのは信長の精神である。飛行機をつくれ。それのみが勝つ道だ。



底本:「坂口安吾全集 03」筑摩書房
   1999(平成11)年3月20日初版第1刷発行
底本の親本:「文芸 
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