音。的が射抜かれてゐるのである。見物の一同、耳をふさいで、砂の中に頭をもぐした。
 この一物の一発たるや、銀山|摧《くだ》くべし、鉄壁穿つべし、姦※[#「宀/九」、第4水準2−5−93]《かんき》の人の国に仇をなす者、之に触るればたちどころにその魄を喪ふべし、まことに稀代な珍品だ。そこで領主(種子ヶ島|時尭《ときたか》)は高価を意とせず言ひ値で之を購《もと》めた。二挺で二千両だつたとさるポルトガルの水夫の一人が書いてゐるが、当にならないさうである。
 二名の南蛮人を師匠にして、目を眇に腰をひねつて的を睨む秘伝の伝授を受け、同時に、篠川小四郎に命じて妙薬のねり方を会得せしめ、金兵衛尉清定といふ工人に命じて模造せしめた。形は良く出来たけれども、底をふさぐ手段が分らぬ。翌年訪れた南蛮船に鉄匠がゐたので、秘訣を会得したといふ。鉄砲伝来の日は、日本の実在が西欧に知れた最初の日でもあつた。
 紀州|根来寺《ねごろじ》の杉坊といふ者がこの話を伝へきいて、千里を遠しとせず漕ぎつけ、一物の譲渡を乞ふた。時尭は煩悶した由であるが、我の好むところ人も亦好むといふ悟りに達して譲つてやつたといふ。又、堺の商人で
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