心から謙虚な構えで他人に質問のできる自分でないことに気付きました。
 これは甚だ不幸なことです。僕は正直にさう痛感しました。けれども反面それほど質問がむづかしいことに改めて気付いたのでした。すくなくとも僕にとつては、まことに謙虚な質問ができるやうな大海のやうにフランクな心構えになること、そのことだけで僕の文学がすでに半分くらゐは光りある救ひのなかへ足を踏み入れることになりさうだと感じました。さうして、要するに僕はつまり終生他人に質問はできさうもなく、僕の文学は自問自答の孤独な生涯を送るのだらうと、いささか暗澹として考へたのです。けれどもこれは一に貴兄への質問といふことにあれかれと正面から肝胆を砕いた揚句、一向埒のあかないうちに遠慮会釈もなく締切の期日がとつくに過ぎ去つてしまつたことに由来する悒鬱《ゆううつ》極まる自責の念が手伝つて、いささか無役《むえき》に暗澹としすぎたのかも知れません。然り、締切がとつくに過ぎ、必然の結果としてこれの返答を執筆する貴兄の時間が不当な短縮を余儀なくされる洵《まこと》に正義人道上我ながら悲憤慷慨せざるを得ない不埒な事態を招致するにしても、僕は(!)遊んでゐ
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