日本の山と文学
坂口安吾

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)石涛《せきとう》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)短刀|一口《ひとふり》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)(一)[#「(一)」は縦中横]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)わざ/\
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   (一)[#「(一)」は縦中横] 山の観念の変移

 我々の祖先達は里から里へ通ふために、谷を渉り、峠を越えはしたものの、今日我々が行ふやうな登山を試みる者はなかつた。
 支那の画家、文人等には山から山を遍歴し石涛《せきとう》のやうに山中の仙といふやうな生活ぶりの人達が相当居たといふことであるが、我々の祖先達にも山中歴日無しといふやうな支那の詩句が愛好され、山中に庵を結ぶといふやうな境地を愛した人は多いが、今日高山の登山になれた我々から見ると、いづれも山の麓程度に過ぎないのである。
 西行や芭蕉にしても、里人の通る山中の峠は越えてゐるが、わざ/\高峰に登るやうなことはなかつた。今日の我々にとつて山と詩情は、甚だ多く結び
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