君ちゃん、それでよろしいのだろう。ジキル氏とハイド氏ほど悪魔的なものではない。
現われ出でたる君ちゃんは女であった。然したしかに、王子君五郎氏でもあるのである。上野の杜《もり》では、すでにオナジミの極めてありふれた日本の一現象にすぎないのかも知れないが、センバン工王子君五郎という、決して女性的ではなく、むしろズングリと節くれた彼氏を知る私にとって、この出現が奇絶怪絶、度胆をぬかれる性質のものであったことは、同情していたゞかなければならない。
君ちゃんはまさしく女装であったが、女装であるという以外に、女らしいものは何もなかった。第一、普通の男娼なら、女の言葉を用いるだろう。君ちゃんはそうではない。私への気兼ねからではなく、日常そうであることは、私というものを除外して他の男女と話を交している態度を見れば察しがつくのである。
「エッヘッヘ。まったく、どうも、恐縮です」
と、はじめだけ、ちょッと、てれたが、あとは、もう、わるびれなかった。
「実は、なんですよ。これも、世を渡る手なんです。私は、例の男娼じゃアありません。なまじっか、あんなことをしたり、女ぶろうとするのが、いけませんので、全
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