三十余名の妻妾子供の首をはねる。息つくひまもなかつた。秀次を殺してみれば、秀次などの比較にならぬ大きな敵がゐるではないか。家康だつた。秀吉は貫禄に就て考へる。自分自身の天下の貫禄に就て考へ貫禄はその自体に存するよりも、時代の流行の中に存し、一つ一つは虫けらの如くにしか思はなかつた民衆たちのその虫けらのやうな無批判の信仰故にくずれもせずに支持されてきた砂の三角の頂点の座席にすぎないことを悟つてゐた。その座席を支へるものは彼自身の力でなしに、無数の砂粒の民衆であることを見つめ、無限の恐怖を見るのであつた。愚かな、そして真に怖るべき砂粒、それのみが真実の実在なのだ。この世の真実の土であり、命であり、力であつた。天下の太閤も虚妄の影にすぎない。彼の姿はその砂粒の無限の形の一つの頂点であるにすぎず、砂粒が四角になればすでに消えてしまふのだつた。
 そして又秀吉は家康の貫禄に就て考へる。その家康は砂粒のない地平線に坐りながら、その高さが彼といくらも違はぬくらゐ逞しかつた。けれども砂粒は同時に底なしに従順暗愚無批判であり、秀吉がその頂点にある限り、家康は一分一厘の位の低さをどうすることもできない。秀
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