に髻《もとどり》を切つて霊前へさゝげた。すると秀吉につゞいて焼香に立つたのが家康で、おもむろに小束をぬき大きな手で頭をかゝへて髻をヂョリヂョリ糞落付きに霊前へならべる。目を見合せた満座の公卿諸侯、これより心中に覚悟をかためて焼香に立ち頭をかゝへてヂョリヂョリやる。葬儀の日に至つて小倅の霊前に日本中の大名共の髻が山を築くに至つたといふ。秀吉は息も絶えだえだつた。思ひだすたび邸内の諸方に於てギャアと一声泣きふして悶絶する、たまりかねて有馬の温泉へ保養に行つたが、居ること三週間、帰京する、即日朝鮮遠征のふれをだした。悲しみの余り気が違つて朝鮮征伐を始めたといふ当時一般の取沙汰であつた。
捨松(後の秀頼)が生れた。彼のもうろくはこの時から凡愚をめざして急速度の落下を始める。秀吉はすでに子供の愛に盲ひた疑り深い執念の老爺にすぎなかつた。秀頼の未来の幸を思ふたびに人の心が信用されず、不安と猜疑の虫に憑かれた老いぼれだつた。生れたばかりの秀頼を秀次の娘(これも生れたばかり)にめあはせる約束を結んだのも秀次の関白を穏便に秀頼に譲らせたい苦心の果だが、秀吉の猜疑と不安は無限の憎悪に変形し、秀次を殺し、
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