気であるから、こゝは悪どく小策を弄せず、この男の苦心通りに和議をとゝのへてやる方が簡単にして上策だといふ判定を得た。それにつけても、行長が条約に譲歩の意をほのめかしてゐるのだから、徹底的に明国に有利な条約まで持つて行かうといふのが沈惟敬の肚だつた。けれども条約を結ぶに就ては日本軍は先づ釜山まで撤退すべしといふこと、並びに捕虜の朝鮮二王子を返還すべしといふこと、之は行長の一存のみでは決しかねる問題だ。朝鮮の二王子を捕へたのは清正で、事は大きくないけれども、清正の意中が難物である。
 この二ヶ条は一時的な面子《めんつ》の問題、和議のとゝのつた後では軍兵の撤退も王子の返還も面倒のいらぬことだから、急ぐことはない。つまらぬことに拘泥せず実質的な媾和条約をかせぐ方が利巧だといふ惟敬の考へ、戻つてきて、この二ヶ条は今は無理だと朝鮮側を説いたけれども、宋応昌はきゝ容れるどころか、激怒した。日本軍の釜山撤退、二王子の返還、朝鮮側では譲歩のできぬ必死の瀬戸際の大問題。オレに任せておけなどゝ大きなことを言つて出掛けて、撤退もさせぬ二王子も返還させぬ、それで媾和とは開いた口がふさがらぬ。明国の威信を汚す食は
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