、待たしておけ、問題にしない。五ヶ月間、京都に待たせておいた。
小田原遂に落城、秀吉は機嫌よく帰洛する、途中駿府まで来たとき、小西行長が駈けつけてきて拝謁し、改めて朝鮮使節の来朝に就て報告する。秀吉は満足して、アッハッハ、あつさり帰順朝貢しをつたか、さもあらう、それに相違あるまいな、と念を押したが、頭からきめてかゝつて疑ふ様子がないのだから、行長は圧倒されて、否定どころか、多少の修正をほどこすだけの勇気もない。そこで秀吉がたゝみかけて、然らば唐入の道案内も致すであらうな、と問ひたゞすと、それはもう、殿下の御命令に背く筈はございませぬ、かうハッキリと答へてしまつた。
朝鮮使節の一行が交隣通信使にすぎぬなどゝは秀吉もとより夢にも思はず、行長と義智の外には日本に一人の知る者もない。三百名の供廻りをつれ、堂々たる使節の一行であるから、之が帰順朝貢とは殿下の御威光は大したもの、折から印度副王からの使節なども到着して京都は気色の変つた珍客万来、人々は秀吉の天下を謳歌したが、五ヶ月間の待ちぼうけ、この間の使節一行をなだめるために行長と義智は百方陳弁、御機嫌をとりむすぶのに連日連夜汗を流し痩せる思
前へ
次へ
全116ページ中70ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング