て渡韓した。帰順朝貢などゝいふ要求は始めから持ちださない。けれどもシッポがばれては困るから秀吉の要求だけは相手に告げた上で、どうも成上り者の関白だから野心に際限がなく身の程を知らなくて自分らは無理難題に困つてゐる。貴国の方で帰順朝貢仮道入明などゝいふ馬鹿々々しいことは出来る筈でないけれども、自分が間にはさまつて困つてゐるから体よくツヂツマを合せてくれ。つまり交隣通信使をだしてくれぬか。交隣通信使は二ヶ国間の対等の公使であるが、之を帯同して秀吉の前だけは帰順朝貢と称して誤魔化してしまふ。その代り、御礼として、叛民の沙乙背同と俘虜の孔太夫を引渡すし、又、倭寇の親分の信三郎だの金十郎だの木工次郎といふてあひを引捕へて差上げるから、と言つて、三拝九拝懇願に及んだ。
 ともかく朝鮮側の承諾を得ることができて、交隣通信使たる黄充吉、副使の金誠一らを伴つて京都に上り、之を帰順朝貢と称して上申したのだが、朝鮮王からの公文書は途中で偽造してシッポのでないものに造り変へておいたのだ。
 この朝鮮使節が上洛したのは小田原征伐の最中だつたが、朝鮮などは元々日本の臣下ときめてかゝつた秀吉、あゝ、左様か、ヨシヨシ
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