など青二才の差出る幕ではないのに、この人を差しおいて三成だ秀家だと手間のかゝつたこと、これぐらゐの道理がお分りにならぬか、といふ鼻息であつた。
秀吉は心得てゐるから、好機嫌、よからう、万事まかせるから大納言の陣屋へ出向いて然るべく運んで参れ。万事まかせてしまへば何かしら手ミヤゲを持つて戻つてくる如水。
その翌日は焼けるやうな炎天だつた。如水は徳川家康の陣屋へでかける。家康と如水、この日まで顔を見たことがない。顔ぐらゐは見たかも知れぬが、膝つき合せて語り合ふのは始めてゞ、温和な狸と律義な策師と暗々裡に相許したから、遠く関ヶ原へつゞく妖雲のひとひらがこのとき生れてしまつた。頭から爪先まで弓矢の金言で出来てゐる大将だと如水はたつた一日で最大級に家康を買ひかぶる。家康は四十の初恋、如水は四ツ年少の弟だつたが、この道にかけては日本一の苦労人、下世話に言ふ十五六から色気づくとは彼のこと、律義な顔はしてゐるが、仇姿ねたまも忘れ難し、思ふはたゞ一人の人、まさしくこの恋人はかけがへのない天下たゞ一人、いはゞ恋仇同志であるが、仕方がなければ百万石で間に合せるといふ手もあるし、恋仇同志は妙に親近感にひか
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