えてしまふのだつた。この人のためならば水火をいとはず、といふ感動の極に達した。
とはいへ奥州探題を自任する政宗の威力必ずしも小ならず、彼を待望せる北条の失望落胆如何ばかり。之もひとへに家康の尽力である。
家康は北条氏勝に使者をさしむけて氏政の陣から離脱させたり、小田原城内へ地下道を掘り之をくゞつて城内へ侵入、モグラ戦術によつて敵城の一角をくづしたり、神謀鬼策の一端を披露に及んで、※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]群の一鶴、忠実無私の番頭ぶり、頼まれもせぬ米をついて大汗を流してゐる。
早春はじめた包囲陣に真夏がきてもまだ落ちぬ。石田三成、羽柴雄利に命じて降伏を勧告させたが徒労に終つた。十万余の大軍をもち兵糧弾薬に不足を感ぜぬ籠城軍は四囲の情勢に不利を見ても籠城自体にさしたる不安がないのであつた。
浮田秀家の陣所の前が北条十郎氏房の持口に当つてゐた。そこで秀家に命じ氏房を介して降伏を勧告させる。秀家から氏房の陣へ使者を送つて、長々の防戦御見事、軽少ながら籠城の積鬱を慰めていたゞきたいと云つて、南部酒と鮮鯛《せんたい》を持たせてやつた。氏房からは返礼に江川酒を送つてよこし、
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