だ如水ではなかつたか。そして土牢にこめられ執拗なる皮膚病とチンバをみやげに生きて返つた彼ではないか。その皮膚病とチンバは今も彼の身にその青春の日の栄光をきざみ残してゐるのであるが、彼の心は昔日の殻を負ふてゐるだけだ。
彼は二十の若者の如き情熱亢奮をもつて我が時は来れりと乗りだしたが、彼の心に崖はなく、絶対の孤独をみつめてイノチを賭ける詩人の魂はなかつた。彼はたゞ時代に稀な達見と分別により、家康の天下を見ぬいてゐた。家康が負けないことも、そして自分が死なないことも知りぬいてゐた。己れの才と策を自負し、必ず儲る賭博であるのを見ぬいてゐた。彼は疑らず、ためらはなかつた。すべてを家康にはり、倅長政の女房を離縁させて家康の養女を貰ふ全身素ッ裸の賭事。彼は自ら評して常に己れを賭博師といふ。然り、彼は賭博師で、芸術家ではなかつたのだ。彼は見通しをたてゝ身体をはつたが、芸術家は賭の果に自我の閃光とその発見を賭けるものだ。
彼は悠々と上洛した。彼の胸には家康によせる溢れるばかりの友情があつた。小田原にあひ見てこのかたこの日に至つて頂点に達した秘められた友愛。彼はそれを最も親身に、又、義理厚く表現した
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