顔も立つやうにはからふから私にまかせなさい、と引きとらせた。そこで三成には公職引退を約束させ佐和山へ引退させる。尚その道で荒くれ共が現れてはと堀尾吉晴、結城秀康の両名に軍兵つけて守らせる。三成をこゝで殺しては身も蓋もない。たゞ一粒の三成を殺すだけ。生かしておけば多くの実を結び、天下二分の争ひとなり、厭でも天下がふところにころがりこもうといふ算段だ。家康は一晩じつくり考へた。同じ思ひの本多正信が一粒の三成もし死なずばといふ金言を家康に内申しようと思ひたち、夜更けに参上してみると、家康は風気味で寝所にこもつてをり、小姓が薬を煎じてゐる。襖の外から、殿はまだお目覚めでござるか。何事ぢや。石田治部のこといかゞ思召《おぼしめ》すか。さればさ、俺も今それを考へてゐるところぢや。左様ですか、御思案とならば、私めから申上げることもござりますまい、と正信は呑込みよろしく退出したといふのだが、もとより例の「話」にすぎない。家康は自信があつた。僥倖にたよる必要がなかつたのである。
三成は裸一貫ともかく命を拾つて佐和山へ引退したが、彼は始めて独自の自我をとりもどしてゐた。彼は敵を怖れる必要がなくなり、そして
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