たのであるが、それ故むしろ利家の死に彼自らの本領をとりもどしてゐた。天才達は常に失ふところから出発する。彼等が彼自体の本領を発揮し独自の光彩を放つのはその最悪の事態に処した時であり、そのとき自我の発見が奇蹟の如くに行はれる。幸ひにして三成は落胆にふける時間もなかつた。
利家が死ぬ、その夜であつた。黒田長政、加藤清正ら朝鮮以来三成に遺恨を含む武将たちが、時至れりと三成を襲撃する。三成は女の乗物で逃げだして宇喜多秀家の屋敷へはいり、更にそこを脱けだして、伏見の家康の門をたゝき、窮余の策、家康のふところへ逃げこんだ。
なぜ三成が利家に頼つてゐたか。なぜ三成に自信がなかつたか。彼には敵が多すぎた。その敵を敵と見定める心がなくて、味方にしうるものならばといふ慾があり不安があつた。今はもう明かな敵だつた。彼は敵と、そして、自分をとりもどした。三成は家康を知つてゐた。彼は常に正面をきる正攻法の男、奇襲を好まぬ男であつた。
追つかけてきた武骨の荒武者ども家康の玄関先でわい/\騒いでゐる。家康はこれをなだめて太閤の薨去日も尚浅いのに私事からの争ひなどゝは如何《いかが》なものと渋面ひとつ、あなた方の
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