て、歴史化する。美談はおゝむね歴史化であり、偉人も悪党も、なべて同時代の人間の語りぐさもあらかたそうであり、ぐうたらで、だらしがないのは自分とその環境だけ、そして環境をではずれると、現実もまた、歴史的にしか実在していないものだ。
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私は本来世に稀れなぐうたらもので、のんだくれで、だらしがないから、切支丹の殉教の気魄などには大いに怖れをなして、わが身のつたなさを嘆いていたのであったが、この戦争によって、にわかに容易ならぬ自信をえた。それは要するに、例の二合一勺と切支丹の三合に瞠目した結果にほかならぬのだが、私といえども、二合一勺のそのまた欠配つゞきでも祖国を売らなかったカイビャク以来の歴史的愛国者であることを自覚したからであった。
おもえば私はおもしろがって空襲を見物して、私自身も火と煙に追いまくられて逃げまわったり、穴ボコへ盲滅法とびこんで耳を押え、目を押えて突然神さまをおもいだしたり、そういうことも実際はさして身につまされておらず、戦争中も相かわらずつねにぐうたらで、だらしがなかった。
それにもかゝわらず、戦争というやつは途方もない歴史的な怪物、カイビ
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