をつまんで、ブラブラふって見せた。百合子の顔色は、次第に蒼ざめた。百合子は思わずテーブルのフチをシッカとつかんで、
「だから、お父さんは、どうだって云うのよ」
「意地をはるのは、よせ」
父は腕輪のついた南京虫を元の場所へ戻した。奈々子の家から発見された五十四個は、時計だけで、腕輪がついていないのだ。
「お前のカンはすばらしいのだ。オレはお前があの晩陳の庭でこの時計を拾ったとたんに呟いた言葉を覚えているのだ。男が南京虫とは変だなア、とお前は呟いたのだぞ。もっとも、翌日になると、奈々子の屍体が発見され、室内から南京虫が腐るほど現れてきた。そのために、陳の邸内で拾った南京虫の特異性というものがにわかに薄れてしまって、犯人の歩いたところに南京虫が一ツ二ツ落ッこッてるのは当り前だと誰しも軽く思いこんでしまったのだ。オレも、むろん、そうだった。ようやく、今日になって、あそこで拾った南京虫に限って腕輪のついてることに気がついたのだよ」
百合子はいらだたしげに叫んだ。
「だから、どうだって云うんです」
父の顔はひきしまった。
「警官らしい態度じゃないぞ。だから、言うまでもなく――お前、ちゃんと知
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