だろうッて言ったくせに」
「そうは云ったさ。しかし、そのあとで気がついたのだ。どうやら、お前の疑問は一番急所に近づいているんじゃないかということにね」
「むしろ一番急所を外れていたのよ。あんまり尤もらしいのは、偶然という大事な現実を忘れさせる怖れがあるわ」
父は切なげに、首をふった。
「オレはお前の身が心配で、お前が陳の邸から出てくるまでというもの、この事件のためではなしに、お前の身のために、この事件について考えた。そのために、今まで捉われていて気づかなかった怖しいことに気がついたのさ。お前の話をきいてから、いよいよその確信が深くなった。さ、おいで。オレの確信をたしかめるのだ」
「どこへ行くのです」
「安心おしよ。陳の邸じゃない。警察へ行くのだ。そして、お前に見せたいものがあるのだよ」
父と娘は警察へ行った。そして父が娘をつれて行ったのは、この事件の証拠品の前である。
「ここに五十五個の南京虫がある。五十四は奈々子の家からでてきたが、一ツは陳の邸内の犯人がとび降りた地点で拾ったものだ。どれがそれか判るかね」
「判るわ。腕輪のついてるのがそれよ」
「そうだ」
次に父は被害者の現場写
前へ
次へ
全27ページ中21ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング