すか」
 正直にも程があろうというものだ。ほかの人にはむしろこうは云えないが、息がつまるほど好感のもてる令嬢だから、かえって狎《な》れて、こう言いきる以外に仕方がなかったのである。
 令嬢は鳩が豆鉄砲くらったように目をパチパチさせたが、百合子をやさしく睨んで、
「たとえ本当にそうだとしても、そうですなんて、誰だって言う筈ないわよ。あなたッたら、まア、どうしてにわかに大胆不敵な質問をなさッたの?」
「それは、その、さッき仰有ったことのせいです。乱世だから、国際人は神出鬼没だって」
「敏感ね、日本の婦警さんは」
「じゃア、やっぱり、そうですか。アラ、ごめんなさい」
「あやまることないわよ。この乱世に他国へ稼ぎに来ている国際人は、どうせそれしか商売がないでしょうね。ですから、あなたのカンは正しいかも知れないけど、密輸品にもピンからキリまであるのです。政府や他の勢力がひそかにそれを奨励しているような密輸だって、あるかも知れないのよ」
「すみません」
「いいのよ。それで、もしも父がそうなら、それから、どうなの?」
「もう、いいんです」
 百合子は口を押えて、ふきだしたいのを堪えながら、立上った。
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