いんですか」
「奥さまも居ないし、男の御子様もいないよ。オスは今のところ犬だけさ」
「お嬢さまにぜひ会って下さるようにお願いしてちょうだいな」
「巡査なんていけ好かないが、まア、女だから、取り次いでやろう」
ところが意外にカンタンにお許しがでて、邸内へ通された。この家も戦災で焼けたのを、陳氏が地所をかりて小ザッパリした洋館をたてたものだ。室数は十室ぐらいで、庭にくらべてそう大きな家ではなかった。
広間へ通された百合子は、現れた陳令嬢の美しさに、思わず息をのんでしまった。自然にポッとあからんで、あまり上手ではない英語をギクシャクとあやつりながら、
「突然、恐れ入ります。私、婦警の……」
と云いかけると、令嬢はニコニコして、
「日本語で仰有《おっしゃ》い。私、日本人と同じぐらい日本語が上手よ。日本で育ったから。あなた、本当に、女のお巡りさん?」
「ええ、そうです」
「まア、可愛いいお巡りさんだこと。男の犯人をつかまえたことあって?」
「いいえ、まだですけど」
「猛犬がうろついてる中国人の邸内へ一人でくるの心配だったでしょう」
「ええ。ですから、お嬢さまにお目にかかって、目がくらんでし
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