練された飛びきり優秀犬なのよ。そのほか、室内にはボストンテリヤと、ボクサーという小型の猛犬も飼われてるのよ。知らない人はあの邸内に一歩ふみこむこともできないような怖しいところなのよ」
「庭が広いから、一隅で起ったことには、他の一隅にいる犬は気がつくまいよ」
「あるいは、そんなことかも知れないけど……」
 百合子はやがて晴れ晴れと叫んだ。
「私、とにかく、当ってみるわ。私のカンもなんだか正体がつかめないのだけど、でも、うっちゃっておけないような気持があるのよ。これから陳邸へ乗りこんでみるの」
 どうやら百合子の顔の腫れもひいて、娘々した可愛いい昔の顔にかえっていた。

[#5字下げ]美女と佳人[#「美女と佳人」は中見出し]

 百合子は娘らしい普通の洋装で行ったけれども、婦警の身分は隠さなかった。
「先夜、この邸内へ逃げこんで行方不明になったある事件の容疑者のことで、助言していただけたらとお伺いしたんですけど、御主人に会わせていただきたいのですが」
「御主人は商用で台湾へ御流行中さ」
「代理のお方は?」
「お嬢さまがいらっしゃるけど、会って下さるかどうか」
「ほかに御家族はいらっしゃらな
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