似顔絵を見せると、
「この男なら、奈々子のもとに出入りするのを三四度見かけました」
「相棒が一しょでしたね」
「いえ、私の見たのは、いつもこの男一人だけです」
「どういう用件で出入りしていたのですか」
「実はそれが判ったために、次第に奈々子と別れる気持になったのですが、この男は奈々子にモヒを売りこみに来ていたのです。モヒが命の綱ですから、奈々子はこの男なしには生きられない状態だったと云えましょう」
「すると、情夫ですね」
「いいえ。すくなくとも私が旦那のうちは、この男が情夫であった様子はありません。この男なしには奈々子が生きられなかったという意味は、モルヒネが奈々子の命の綱だったという意味なんです。そして私の知る限りでは、二人の関係は純粋な商取引だけのようでした」
「奈々子さんの生活費はどれぐらいかかりましたか」
「私が与えていた定額は毎月五万円、それに何やかやで七八万になったかも知れませんが、奈々子はモヒの費用のために女中も節約していたほどで、いつもピイピイしていましたね」
 この証言に至って、それまでの見込みが怪しくなってきたのである。ミス南京ともあろうものがそんなにピイピイしてい
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