えているようだが、これは低くて全く聞きとれない。どうやら、玄関先で応対しているらしい。また、女の声。
「知りませんたら。なんですか、言いがかりをつけて! 警察へ訴えますよ!」
この声をきいたとたんに、門の外にいた波川巡査は無意識にガラガラと門の戸をあけて、ズカズカと中へ入ってしまった。この家の一人住いの女主人がさだめし喜んでくれるだろうと思ったのである。
ところが、妙なアンバイになった。玄間の土間に二人の男がいる。
女主人の奈々子は室内から二人を見下して睨み合いの様子だったが、制服の巡査が闖入したので、同時にふりむいた三人のうち、むしろ誰よりも狼狽の色を見せたのは奈々子であった。
「なにか御用ですか」
と息をはずませて、きびしく訊く。
「通りがかりに、警察へ訴えますよという声をきいて、思わずとびこんだんですが、自分が何かお役に立つことがあるでしょうか」
「いえ、なんでもないんです。内輪の人に、親しまぎれに、冗談云ったんですのよ」
「そうですか。自分の耳には冗談のようには聞えませんでしたが……」
波川巡査は二人の男を観察した。一人は体格のガッシリした遊び人風の若い男だが、洋服は
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