南京虫殺人事件
坂口安吾
−−
【テキスト中に現れる記号について】
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#5字下げ]消えた男[#「消えた男」は中見出し]
《》:ルビ
(例)比留目奈々子《ヒルメナナコ》
−−
[#5字下げ]消えた男[#「消えた男」は中見出し]
「ここの女主人は何者だろうな」
この家の前を通る時、波川巡査は習慣的にふとそう思う。板塀にかこまれた小さな家だが、若い女の一人住いで、凄い美人と評判が高い。
警察の戸口調査の名簿には「比留目奈々子《ヒルメナナコ》二十八歳、職業ピアニスト」となっているが、ききなれない名前である。なるほど稀にピアノの音がすることもあったが、しょッちゅうシェパードらしい猛犬が吠えたてているので有名だった。
今日もシェパードが吠え立てている。するとカン高い女の声がきこえた。
「なんですって! 小包……知りませんよ……脅迫するんですか!」
波川巡査は思わず立ちどまった。とぎれとぎれにしか聞きとれないが、聞えた部分はなんとなく穏やかではない。女の語気もタダゴトではない見幕のようだ。
男の声が何かクドクドとそれに答
次へ
全27ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング