だらう。
 陵下を離れる思ひのほかに、彼を苦しめる思ひはなかつた。すべては、すでに、終つてゐた。棄つべきものは何もなかつた。雲を見れば雲が、山を仰げば山が、胸にしみた。
 然し、彼は、凛烈たる一つの気品を胸にいだいて放さなかつた。それは如何なる仏像よりも、何物よりも、尊かつた。それをいだいて、彼は命の終る日を、無為に待てば、それでよかつた。



底本:「坂口安吾全集 04」筑摩書房
   1998(平成10)年5月22日初版第1刷発行
底本の親本:「改造 第二八巻第一号」
   1947(昭和22)年1月1日発行
初出:「改造 第二八巻第一号」
   1947(昭和22)年1月1日発行
入力:tatsuki
校正:岩澤秀紀
2008年2月29日作成
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