尽力を惜しまなかったんだから、そちらも、ちょッと、もらしてくれまへんどすか、ほかの新聞にもらさんことをネ」
「それは、キミ、もらすも、もらさんも、あるもんか。君らの尾行記は、うけるぜ」
「おだてなさんな」
「ときに昨日の朝の七時三十分だったネ。君らが煙山さんの姿を最初見つけたとき、彼の服装はどうだった」
「今日のと同じさ。シャッポとマフラーが違うだけだ」
「マスクは?」
「そのときは、かけてなかったネ。マスクかけて、マフラーにうずまッてたんじゃ、見分けがつかねえや。コチトラ、二度見かけただけの顔だから」
「そうかい。よく分ったな」
「からかいなさんな。第一ヒントを、ひとつ、たのむ」
「アッハッハ。第一ヒントは、君から、もらったんだよ」
「いけねえな。じゃア、第二ヒントは?」
「第二ヒントは、上野光子が与えてくれたね」
「どんなヒントさ」
「まア、待ってくれ。今日中に、必ず、わかる。犯人をあげてみせるよ。まア、君に、第三ヒントだけ与えておこう。いいかい、血しぶきが壁にとび散ってるんだから、犯人は全身に血をかぶったろうと思うよ。ところが、葉子のほかに、衣服が血まみれという人物がいない。岩矢
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