腹の敷島だが、こう云うのは、ムリがない。
「しかしですね。あれが加入すれば必ず優勝しますよ。優勝すれば、安いものです。とにかく、大鹿は三百万の金がいる。三百万必要だから動くんですよ。さもなきゃ絶対動かん選手なんだから、相場を度外視して、三百万そろえて下さい」
「じゃア、こうしよう。とにかく、三百万、そろえれば、いいのだろう。大鹿に百万。暁葉子の出演料の前貸しとして二百万。これで当ってみたまえ。暁葉子の二百万も例外だが、いずれ、返る金だから、あきらめるよ」
「そうですか。じゃ、それで当ってみましょう」
そこで煙山は、さッそくその日の夜行で京都へ走った。京都には、大鹿と葉子が愛の巣を営むための秘密の隠れ家があるのである。それは、大鹿と葉子だけしか知っていない。そこは嵐山の片隅のアトリエだ。母屋から、かなり離れて独立している。主人の画家が死んだ後は、使用されずにいたものであった。煙山と細巻は葉子から、くだんの住所をききとると、話が落着するまでは誰にも知られず姿を隠しているようにと言い含めて、裏門から帰させ、煙山も裏門から脱けだして、京都へ走ったのである。
地図をたよりに来てみると、右隣と
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