。怨恨、物盗り、諸説フンプンでさ。支局長からの電話では、ラッキーストライクから受けとった三百万円が紛失しとるそうです」
「嘘つけ!」
「アレ! なんたる暴言」
「ソモソモ我等こと二名の弥次喜多はだな。東京のビンワンなる記者であるぞ。コチトラは朝の七時半から夜の九時半すぎまで、煙山を追っかけてきたんや。彼の足跡あまねくこれを知っとる」
「コレコレ。あんまり、大きいことを言うな」
と、さすがに金口副部長、木介を制したが、木介いささかも、ひるまない。
「いえ、あまねく、知っとるですわ。煙山は夜の九時半までは確実に大鹿に会うとらん。九時半までは、三百万円は煙山のカバンの中にあり、九時半すぎは、旅館においてあったのです。大鹿は、何時に殺された?」
「夜の九時から十二時の間」
「ソレ、みろ」
「オイオイ、モク介。あわてるな。われらも渦中の人物や。考えてみろ。我等こと何故に煙山を追っかけたか、これ、怪人物の電話によるものである。これは、イカン。何者か、我等ことを笑うとる陰の人物がおるわ。捜査本部へ出頭じゃ」
そこで両名は捜査本部へ出かけた。
居古井警部は、両名の怪しき陳述に、いささか呆れた様子である。
「すると、あなた方は東京からズッと京都まで煙山氏を尾行してきたのですね」
「仰せの通りで」
警部は一人の刑事に命じて、両名からきいた旅館の名を教えて、煙山に出頭してもらうように命じた。刑事はすぐ、でかけた。
「すると、大阪へ降りて、桃山、国府両選手を訪ねて、あとはマッスグ京都へ、ね。全然大鹿に会う時間はないワケですね。九時半ごろまで」
「左様で。しかし、ですな。我等ことがウドンをくい、酒をのんどるヒマに、煙山は散歩にでてしもうたですわ。しかし、カバンは、持って出ませんということで」
「しかし、九時半に上野光子が大鹿を訪ねていますが、そのときは契約を交したあとらしく、安心しきっていたそうですな」
「アレマ」
「無名の怪人物からの電話で尾行を命令したのですな」
「イヤ、煙山の出発の時間を知らせて来たのですわ」
「そこが、ちょッと、面白いですな」
「変な電話がチョイ/\かかってくるもんですわ、新聞社ちゅうトコは。たいがいインチキ電話ですが、今度ばかりは、煙山の出発時刻から、ズバリそのもの。東京のフリダシから京都の上りまで、チャント双六《すごろく》ができてますわ。やっぱり、正月のせ
前へ
次へ
全30ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング