地方文化の確立について
坂口安吾
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)之《これ》は
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農村は淳朴であるといふことが過去の常識であつたけれども、近頃では農民ぐらゐ我利々々なものはないと云つて都会の連中は恨んでゐる。どちらが果して真実であるかといへば、之《これ》は大きな問題で、然し、先づ我々が第一に反省しなければならないことは、農村は淳朴だときめてかゝつて一向に深い考察を加へなかつた思考の不足に禍根があつたといふことである。常識とはかういふものだ。我々は常識を思考の根底とし、その上に生活を営んでゐるが、常識は決して深い洞察から生れたものではなく、長い歴史的な思考の地盤であつたといふばかりで、その思考の根底が深く正しいものであることを意味してゐない。農村は淳朴だときめてかゝつて疑ふことのなかつたのが奇怪であり、かういふところに日本国民全般に思考力が不足してをり文化の低さがあつたので、我々は先づ身辺の貧弱な、又偽瞞にみちた数々の常識に正しい考察を加へることが必要だ。
元来日本の歴史は土の歴史で、大化改新によつて土地国有が断行せられ口分田の制度が行はれて以来
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