りするが、いま書いたのは新潟市の方言だ。新潟の子供たちは小にしてすでに甚しく諦観が発達しており、こういう言い方をするのが決して珍しくはないのである。それというのが彼らのオトトやオカカが常にそういう見方や感じ方や言い方をしているからで、要するに先祖代々ずッとそうだということになる。
 ここに方言を書いただけではとうてい皆さんにお分りにならないことが一ツあるが、新潟の方言にはまるで唄うような抑揚があって、是が非でも納得させたいと哀願しているような哀れさと同時に自分自身を小バカにし卑屈にしてもてあそんでいるような諦めとユーモアがある。
 新潟市の盆唄は次の通り。
「盆らてがんね茄子の皮の雑炊ら。あんまテッコモリで鼻の頭をやいたとさ」
 お盆だというのにオレのウチの食い物は茄子の皮の雑炊だとさ。あまり山盛りで鼻のさきを焼いたとさ。というわけだ。自分をわざとわるくいやらしく表現して笑わせてよろこぶ気風である。
 新潟市だけの特例だが、冬になると「湯づけ」というものをたべる。冷飯を湯でさッと煮てタクアンぐらいをオカズにカリカリゾロゾロとすする。まことにどうも哀れ惨たる食べ物で、腹があたたまるからと
前へ 次へ
全6ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング