は厳しく認める必要がある。少数の兇悪事件に耳目をそばだてるよりも、窮乏にたえて敢えて罪を犯さざる多数の同胞への信頼を持たねばならぬ。
料金投函を民衆の勝手にまかせた公衆電話からは、通話数以上の料金が現われたというではないか。各自の責任にまかせれば、かくのごとく、公明正大な同胞の心を信じなければならぬ。いたずらな禁止は、好奇心のもとであり、すべてを各人の責任にまかせるとき、やがて道義はおのずから各人の自覚によって育つものだ。
私はこの現実の日本において、最も大きな罪のもとをなすものは、物資の窮乏をおいては、つぎに、為政者の国民への不信であると考える。自らのみ道義あつく、心正しきものとする為政家ヅラほど浅はか、醜悪なものはない。御身等はこの欠配に死にもせず、痩せもせぬとはなぜであるか。まずそれを考えることである。
私は政治家が、政治家的ルートによって暖衣飽食していることをとがめたいとは思わぬ。むしろ暖衣飽食すべきだと思う。かつての米内大将のごとくに、ゾースイをすすり、国民に範をたれるのも、その人格の高潔なる、まことに有難いことだけれど、しかし、政治は清貧を事とする無策なものでは困るの
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