らず、失脚した政治家もおらぬ。
 千八百円の配給生活では、けっして生きてゆかれぬ。現実はそれを明示しており、判事は餓死し、政治家は暖衣飽食しているではないか。しからば、なぜ、政治政策の基本概念として、千八百円の配給では食ってゆかれぬ、各人がその各人のなにかのルートによって生きのびている、その実際を厳しく承認してかからないのか。
 政治の根本に、現実に即した論理性を欠いているのだ。つまり、全然、人間というものがない。もし、人間というものがあり、人間に即した論理があれば、千八百円の配給では食ってゆかれぬ、しからば各人のヤミやルートは犯罪ではない。そこから出発して、別の政策がなければならぬはずなのである。根本的に別のなにかでなければならぬはずである。
 人間とは何者であるか。政治家は最も多くそれを知ることが必要である。人間とは何者であるか? 衣食足れば礼節を知り、窮すれば罪の子となる。食に窮すれば、子は親に隠れて食い、親は子の備蓄を盗む。これが人間の姿である。孝子は自ら飢えて親を養うというが、これは非凡のことであり、非凡の例を以て凡人にのぞみ訓戒をたれて足れりとするのは、自らの無能無策を稀有
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