ガキをウチへ泊めるぐらいなら、ホンモノのメメズと一しょにドブへねる方がマシだよ」
 そこで金サンは隣の床屋へでかけた。
「オ。源的。そッぽを向いちゃアいけねえや。今日は話の筋があってきたんだ。オレの頭が狂っているか、お前の頭が狂っているか、実地にためしてみようじゃないか。オレが東京からガキを一匹つれてくるから、正坊と将棋をやらせてみようじゃないか。そのガキは正坊よりも二ツ年下だが、ガキの方が角をひくと云ってるぜ」
「二ツ下といえば、小学校の六年だな」
「そうだとも。もっとも、学校とは縁が切れている。脳膜炎をわずらッて、それからこッち、学校には上っていないそうだ」
「正坊に角をひくなら初段だが、小学校の六年生に初段なんているもんかい」
「東京にはザラにいるらしいや。魚河岸の帰りにちょいと見かけたものでな。オレの町には正坊てえ天才がいて、町の大人には手にたつ相手がいなくなって困っているが、ひとつ指しに来ないかと云ったところが、田舎の子供なら、ま、角を落して指してやろう。なんなら二枚落して指してやろうと、こういうわけだ」
「偉い先生の弟子なのか」
「そんなもんじゃないそうだ。しかし、きいてみ
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