用に扱うようにできてるものだ。オッ。姐チャン。お前の方が手ざわりも柔かいし、カミソリの当りも柔かくッていいや。たのむぜ」
 そこで若い娘の弟子が仕事にかかろうとすると、源サンが目の色を変えて、とめた。
「よせ! やッちゃいけねえ」
「旦那がやりますか」
「やるもんかい。ヤイ、唐変木。そのデコボコ頭はウチのカミソリに合わねえから、よそへ行ってくれ」
「オッ。乙なことを云うじゃないか。源次にしては上出来だ」
「テメエの面ア見るとヒゲの代りに鼻をそいでやりたくなッちまわア。鼻は大事だ。足もとの明るいうちに消えちまえ。今日限り隣のツキアイも断つから、そう思え」
「そいつは、よくねえ。残り物の腐った魚の始末のつけ場がなくならア」
「なア。よく、きけ。キサマの口の悪いのはかねて承知だが、云っていいことと、悪いこととあるぞ。ウチの正坊《しょうぼう》の将棋がモノにならねえと云ったな」
「オウ、云ったとも。云ったが、どうした」
 それまで落ちつき払っていた金サンが、ここに至って真ッ赤になって力みはじめたのは、曰くインネンがあるらしい。
「お前に将棋がわかるかよ」
「わかるとも。源床《げんどこ》の鼻たれ小
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