の声は遠雷のやうに喉の奥でゴロゴロ鳴り、くひついた蠑※[#「虫+原」、第3水準1−91−60]《いもり》のやうにお綱の脛にぶらさがつて恐怖のあまり泣きだしてゐた。
かういふ話もある。
これは寺院の中で行はれた出来事。お綱が眠りからさめて帰らうとするとホーゼがなかつた。お綱のホーゼのことだから赤い色もさめはて、肉臭もしみ、よれ/\の汚いものに相違ない。禅僧をゆり起して出せと言つたが、彼は返事をしなかつた。
お綱は突然激怒して禅僧を組敷き、後手にいましめた。本堂へひきづりこみ、これを柱にくくしつけて、着物をビリ/\ひき裂いて裸にしてしまつた。仏壇から大きな蝋燭をとりおろして火を点けると、坊主の睾丸にいきなりこれを差しつけたといふ。坊主の身体がいきなりはぢきあがつたのは申すまでもない話で、百本の足があるかのやうにバタ/\ガタ/\とやつた。柱の廻りを腰から下の部分だけで必死に逃げまはりながら、ワア/\ギャア/\喚きたてたといつたらない。喚きがどんなにひどかつたか、到頭一人の村人がききつけて寺の本堂へかけこんできた。もがき、喚いてゐるのは裸体のまま柱にいましめられた坊主ひとり、大きな暗闇の
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