たたぬうちに一つ残らず校門へ吸ひ込まれたではないか! 村には今わづかに一人の人影を探し出すことも出来ない。そして荒涼たる秋が残つた。
扨《さ》て、この日は丁度日曜日であつた。ところで、日曜日といへば、絶対的に、あるひは必死的にさへ学校へ顔出しを憎むところの誠実な先生達が、やはり必死の意気ごみで駈けつけたといふのは! これは何んとしたことなのだ。
村人は雨天体操場に集合した。そして一瞬場内が蒼白になると、職員室で密議を凝らしてゐた村の顔役と教員がブロンズのデスマスクを顔にして黄昏をともなひながら入場した。まづ演壇へ登つたのは言ふまでもなく校長である。彼は劇しい心痛のせいか、全くのぼせてゐたし、そのうへ細まかく顫へてゐた。といふのは、一つは勿論生れつきではあつたが、一つには生憎寒川家には学齢期の児童がなかつたのに比べて、寒原家には大概の組に子供がゐた。この密接な関係からして、先生達は勿論通夜へ! 然り! 出席する余儀ない立場にあつたのである。
「諸君! 何たることである! (と、斯う言ふ時に彼は早くも力一杯卓子を叩きつけた、が、あまり力がはいりすぎて、とたんに彼は茫然として自分自身の口
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