村のひと騒ぎ
坂口安吾
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)他家《よそ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)突然|雀躍《こおど》り
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ニタ/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
−−
その村に二軒の由緒正しい豪家があつた。生憎二軒も――いや、二軒しか、なかつたのだ。ところが、寒川家の婚礼といふ朝、寒原家の女隠居が、永眠した。やむなく死んだのであつて、誰のもくろみでもなかつたのである。ことわつておくが、この平和な村落では誰一人として仲の悪いといふ者がなく、慧眼な読者が軽率にも想像されたに相違ないやうに、寒川家と寒原家とは不和であるといふ不穏な考へは明らかに誤解であることを納得されたい。
寒原家の当主といふのは四十二三の極めて気の弱い男であつた。この宿命的な弱気男は母親が息を引きとるとたんに、今日は此の村にとつてどういふ陽気な一日であるかといふ気懸りな一事を考へて、よほど狼狽しなければならなかつた。つまり、ひどく担ぎやの寒川家の頑固ぢぢいを思ひ泛べてゴツンと息をの
次へ
全23ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング