とりのぼせてゐる、額に汗を流してゐる、愛する女を憎んでゐる。私はさう思つた。私は野村のなすまゝに身体をまかせた。
「女どもは生き残つて、盛大にやるがいゝさ」
野村はクスリと笑ひながら、時々私をからかつた。私も負けてゐなかつた。
「私はあなたみたいに私のからだを犬ころのやうに可愛がる人はもう厭よ。まぢめな恋をするのよ」
「まぢめとは、どういふことだえ?」
「上品といふことよ」
「上品か。つまり、精神的といふことだね」
野村は目をショボ/\させて、くすぐつたさうな顔をした。
「俺はどこか南洋の島へでも働きに連れて行かれて、土人の女を口説いたゞけでも鞭でもつて息の根のとまるほど殴りつけられるだらうな」
「だから、あなたも、土人の娘と精神的な恋をするのよ」
「なるほど。まさか人魚を口説くわけにも行くまいからな」
私たちの会話は、みだらな、馬鹿げたことばかりであつた。
ある夜、私たちの寝室は月光にてらされ、野村は私のからだを抱きかゝへて窓際の月光のいつぱい当る下へ投げだして、戯れた。私達の顔もはつきりと見え、皮膚の下の血管も青くクッキリ浮んで見えた。
野村は平安朝の昔のなんとか物語の話
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