で、由来衒学者は田舎者であり、郡山は最もイキ好みのシブイ男で(産報などゝは最もシブイ)うるさくて騒々しくてしつきりなしの電車みたいで困るけれども当人がイキ好みであるといふ精神に於ては変りがない。マトモな商売はやれないといふ意気好みだから何とも騒々しいのは仕方がない。
 足のない大入道の幽霊と首のない毛筋だけの地球をゴロ/\ひつかいて走り廻つてゐるうるさい意気好みの男と、昔の日本では騒々しいのが二人たいへん仲が悪かつたのだが、戦争が終つてみると、気の毒に足のない大入道の幽霊の方が死んでしまつた。杉山が生きてゐれば日本の文壇はもう一とまはりうるさくなり、バルザックだのサント・ブウヴだのボルテールだのと読まない本を何百冊も並べたてゝ、ともかく命中するのは風ばかりにしろ細い鉄棒をふり廻して低気圧の子供ぐらゐは年中まき起した筈であつた。
 大将だの大臣の正体がバクロされて檻につながれ、世は変り、こゝに郡山千冬も真人間となる時がきたので××社の編輯記者となり、この雑誌社は裏街道ではないやうで、どうやら人間の表街道へ現れるに及んで、なるほど世の中は根柢的に変つたんだなアと私は彼を眺めて世のたゞならぬ
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