屋の品物をしかるべく取ついでやる機関なのである。
この先生はつまりまともな仕事が出来ない本性なので、病院へ務めるにも松沢病院などゝいふ当り前のところは気が向かない。座付作者になるにもインチキ・レビュウとくるとまだ少しまともすぎて、安来節とこないと、どうしてもをさまることが出来ない。闇屋なども当り前の商売だあらダメなので、闇屋の上前をはねる経済研究所とこないと務めることができないといふ因果な先生なのである。
愈々空襲が始まる頃になると経済研究所もその筋につぶされてしまひ、私が神田の本屋をひやかしてゐるとブラ/\向ふから歩いてくる郡山にぶつかり、ヤア、どうしてゐる? そこの産報本部につとめてゐるよ、と言ふので、私は日本はもうダメだと思つた。私はそれまで世の中のくはしいことは知らないが、内閣だの、情報局だの、大政翼賛会だの、みんなそれぞれ筋の正しいもので、産報といふところなどもさうだらうと思つてゐた。然し、郡山千冬が務めてゐるやうでは、これはもうマトモなところではない。浅草の裏道と同じ人生の裏道で、インチキな仕事をしてゐる事務所にきまつてゐるのである。日本の堕落こゝに至る、私が暗然として
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