婚は仇討にもグアイがわるい。そこで五郎に耳うちして、
「オイ、今夜、夜逃げしよう」
「またかい。うまい物をタラフクたべさせてくれるのに、夜逃げはしたくないね」
「実はこれこれの事情だ」
「フーン。またね。仕方がない」
その晩二人はそッと夜逃げした。ところが片貝が十郎と駈落ちするということが、他の侍女の口から義澄の家来の者にもれていた。義澄の留守の間に寵愛の女を駈落ちさせては主人に面白がたたないから、それとなく警戒していると、二人が夜逃げするから、ただちに一同の者を叩き起して、
「さっそく駈落ちしやがったぜ。追跡だ」
「それ」
二十人もの郎党が追跡して二人をとりかこんだ。
「主人の寵愛の女と駈落ちとは怪《け》しからん」
「駈落ちは致さん。ごらんの通り兄弟二人だけだ」
「どこかに隠しているのだろう。女を奪われては家来の面目がたたないから、尋常に勝負しよう」
「拙者はある事情があって命を大事にしなければならないから、平に御容赦ありたい」
十郎は一所懸命ペコペコあやまってる。五郎はムズムズして、
「エヘン。エヘン」
道ばたの百貫ほどもある大石の前へ歩みより、ユラリユラリとこじ起し、肩を
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