婚に許しを与える。女の方はおどろいた。まさか十郎は黙っていまい、親に打ちあけて何とかしてくれるだろうと思っていたのに、何もしない。ひそかに十郎に文をやってサイソクしたのに、返事もよこさず、あくまで知らんフリをしているので、泣く泣く平六と結婚したのである。結婚してからも、あなたのところへ逃げて行きたいという手紙をだしたが、これにも返事がこなかった。
そこへ居候にころがりこんだから、平六の女房は大喜びで下へもおかぬモテナシをしてくれるけれども、人のおらぬ物陰で、十郎はしきりに口説かれる。十郎も閉口して、
「明日ここを出ようじゃないか」
「こんなに待遇のよいうちを急にでる必要はないね。半年一年、ゆるりと滞在しようじゃないか」
「そんなに長居してはオレの命がなくなってしまう。実はこれこれの事情で、どうにも滞在ができなくなった」
「そういう事情なら仕方がないね」
翌日そこをでて、同じ村の三浦義澄方に居候する。ここは叔母の家だ。叔母だから大丈夫だと思っていたら、そうは参らなくなってしまった。
三浦義澄に片貝《かたかい》という侍女があったが、これが絶世の美女である。義澄はこれに手をつけたからそ
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