の女房、つまり二人の叔母に当る人がヤキモチをやき、もめている最中であった。
兄弟が居候にころがりこんだので喜んだのは叔母である。三四日様子を見ると、片貝は十郎を見るとソワソワしたりパッと顔をそめるような様子。十郎もまたことさらモッタイぶった渋い顔になるのが曲者だ。叔母はさてこそと十郎を呼びよせて、
「片貝という侍女、絶世の美人とは思わないかい」
「仰有《おっしゃ》る通りのようで」
「お前もいつまでも独身でいるわけにはいかないが、あれほど美人なら女房にもって恥になることはない。結婚しなさい」
「ハア」
叔母が片貝をよんで胸中をきくと、彼女も大喜びで、当家にいて奥様に御迷惑おかけするのは辛いから、あのように立派な殿方と結婚できるならこの上の喜びはございません、という返事。そこで叔母は片貝を十郎にひき合せ、
「結婚と申しても主人の義澄は許してくれないにきまっているから、主人の留守を幸い、日を選び、手筈をきめて駈落ちしなさい。あとは私がよろしきようにして、曾我の姉にもレンラクするから」
「ハア」
また十郎は閉口した。女房をつれて居候もできず、さりとて五郎を一人放っとくのも不安だ。それに結婚は仇討にもグアイがわるい。そこで五郎に耳うちして、
「オイ、今夜、夜逃げしよう」
「またかい。うまい物をタラフクたべさせてくれるのに、夜逃げはしたくないね」
「実はこれこれの事情だ」
「フーン。またね。仕方がない」
その晩二人はそッと夜逃げした。ところが片貝が十郎と駈落ちするということが、他の侍女の口から義澄の家来の者にもれていた。義澄の留守の間に寵愛の女を駈落ちさせては主人に面白がたたないから、それとなく警戒していると、二人が夜逃げするから、ただちに一同の者を叩き起して、
「さっそく駈落ちしやがったぜ。追跡だ」
「それ」
二十人もの郎党が追跡して二人をとりかこんだ。
「主人の寵愛の女と駈落ちとは怪《け》しからん」
「駈落ちは致さん。ごらんの通り兄弟二人だけだ」
「どこかに隠しているのだろう。女を奪われては家来の面目がたたないから、尋常に勝負しよう」
「拙者はある事情があって命を大事にしなければならないから、平に御容赦ありたい」
十郎は一所懸命ペコペコあやまってる。五郎はムズムズして、
「エヘン。エヘン」
道ばたの百貫ほどもある大石の前へ歩みより、ユラリユラリとこじ起し、肩を
前へ
次へ
全10ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング