てない。ただそれが神経衰弱だの病気だのとは考えられずに、キツネがついたとか、怨霊がついたとか、人に呪いをかけられたとか、神通力を得たとか、ミコだとか、そういう風に解釈されていただけであろう。にわかに人間が変った、バカ利巧になったとか、その利巧ということが今日の利巧とはちがって、キツネツキの占いの力の如きも昔に於ては利巧のうちであり得たであろう。そういうキチガイは無数にあったのだ。
大昔にあっては、酒というものも、酒に酔っている時の愉しさだけが酒の力であって、その翌日のフツカヨイの副作用の如きは酒のせいとは考えられていなかったに相違ない。梅毒はコロンブスのアメリカ発見以来全世界を征服したが、梅毒のためにウミが出たり腫れ物がでたりすることはすぐ判ったが、それから十年も潜伏して突然発狂するのが梅毒のせいだということは、実に十九世紀に至るまで判らなかった。十年も潜伏してでるために、それと梅毒とは別なものだというように、相当文明開化の時代になっても考えられていたのだ。まして酒の副作用で翌朝酔いがさめてから陰鬱になるというようなことが昔の人々に知りうるわけはなく、酒の力はその酒をのみ直接きいて愉
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