術の達人ぞろいであった。牧野信一は酔うと意地わるになるし、小林秀雄、河上徹太郎はカラミの大家。中原中也のように酒がないと生気のないのもいるし、私はツキアイにムリに酔う必要があったが、実は当時から今もって酒の味は大キライだ。今では、もっぱら、眠るため、時々はバカになりたいために、イヤな味を我慢に我慢して飲むのである。
 飲んでるうちに、不味がいくらか忘れられる時は、胃袋の調子がよろしい時だ。時々一滴ものめなくなる。五勺ものまぬうちに、胸につきあげるような不快を覚え、完全に一滴ものめなくなるのだ。そういう時には、真ッ赤になるのである。ふだんは、酔えば酔うほど青くなる。けっして赤くはならない。私が赤くなるのは一滴ものめなくてムカムカ吐き気に苦しみだした時なのだが、人はそうとは知らないから、オヤ、今日は大そうゴキゲンですね。まだいくらも飲まないのに、などと言われる。酔うどころか、一滴ものめなくて、吐きそうなんだ、酒を見ただけで堪えられないのだと説明しても、誰も本当にしてくれないのが当然であろう。真ッ赤になって一滴ものめなくなり、酒を見るだけで吐き気がつきあげてくる、という状態が、アンタブスを服
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