ニコヨンというものが生活戦線の最低線のように考えられているが、すぐにニコヨンはもらえないものだそうだ。窓口に並んではじめの一ヵ月はニコマルと称し二百円しかもらえない。二ヵ月目か三ヵ月目にやっとニコヨンちょうだいできる定めだそうで、アブレればそれまで、これだけで一家は支えられない。女房が子供の世話をみながら内職してどうやらその日その日をくらすことができた。
 虎二郎がニコヨンになって何事に最も苦しんだかというと、新聞がよめないことだ。新聞を購読する金は彼にもないが、相棒のニコヨンにもない。新聞が読めない時はどうするかという人生案内の指南をあおぐわけにもいかないので、ハタとこまった。
「なア、お竹。物は相談だが、お前、新聞配達にならねえか」
「あれは子供のアルバイトだよ。いくらにもなりゃしないよ」
「それじゃア、ウチのガキを」
「まだ六ツじゃないか」
「六ツじゃいけねえかなア。それじゃア……」
 と言葉をきったが、それじゃア仕方がないとあきらめたワケではない。それじゃア一ツ拙者がなろうと考えたのである。ニコヨンにまで落ちぶれて貧乏のあげく人生案内を読むことも書くこともできなくては生きている
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