てている後家さんだってタクサンいるよ。男なら尚さらのことじゃないか。子供をかかえてやって行けないから死ぬばかりだというのは肺病で寝たきりの病人やなんかの云うことだよ。お前さんのように五体健全で、働けないとはどういうわけだね。女房子供を養うのが男のツトメじゃないか。人生案内なんてえ妙テコリンなものに凝って働くことを忘れているような妙チキリンな人とじゃとても一しょに暮せないよ」
「今まで暮していたじゃないか」
「広い世間を知らなかったからだよ。私はもうお前さんの顔を一目見ただけでゾッとするんだから。とても同類の人間とは思われなくなッちゃッたんだから仕方がないよ。子供をかかえてとは何事だい。子供は男の働きで育てるのが当り前だよ。子供も育てられないなら、どうか子供だけは引きとって別れてくれと頼むがいいや」
「女とちがって男にはそうカンタンに口がないよ」
「なんでもするつもりなら必ずあるよ。ないと思うのはお前さんが怠け者だからよ。そこに気がつかないようだから、お前さんはタタミの上に住める身分じゃないんだよ。ドブの中へ消えちまう方が身にあってるのさ」
「よっぽどミミズと思いてえらしいけど、実はオレ
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